契約・取引先リスク

顧問税理士・弁護士が廃業した場合に会社が受ける恐ろしいダメージについて解説します|
「先生は潰れない」は思い込み──申告・帳簿・訴訟が止まる4つのリスクと、士業の選び方

取引先の倒産に備えている経営者は多いと思います。では、顧問税理士や顧問弁護士が突然いなくなることに備えている会社は、どれくらいあるでしょうか。「先生のところは大丈夫」「あの事務所は昔からある」。そう思っているうちに、決算期の直前に電話がつながらなくなる。実際に起きている話です。

本記事では動画の内容をもとに、①実際に起きた税理士法人の破産、②士業が倒産する理由と業界の構造、③顧問先の会社が受ける4つのダメージ、④これから士業をどう選び、契約をどう作るか──の順に解説します。専門家に任せているつもりの業務ほど、いなくなった瞬間に会社の首を絞めます。

1. 創業70年の税理士事務所が破産した──「士業は潰れない」の終わり

2026年、富山県高岡市の税理士法人ホライズンが、富山地裁高岡支部から破産手続開始の決定を受けたことが報じられました。決定は4月27日付で、負債は約1億6,400万円(信用調査会社による集計)とされています。前身は1955年創業の税理士事務所で、地域の企業や個人事業主の税務・会計を長年担ってきた事務所でした。

「税理士事務所が倒産する」という話に違和感を覚えた方は、感覚として正常です。東京商工リサーチが2026年7月25日に公表した調査によると、税理士事務所の倒産はこれまで半年で概ね1〜2件にとどまり、1993年以降の34年間でゼロの年が15回、年平均でも1件未満という水準でした。ところが2026年上半期(1〜6月)はすでに4件。上半期で4件は1993年以降で初めてで、年間の最多である2009年・2015年の5件に、半年で並びかけています。

内訳も象徴的です。給付金の不正受給を指南したとして代表が逮捕された事務所が1件、競合の増加で赤字となり事業継続が困難になった事務所が1件、そして代表者の死去が1件、代表者の体調悪化が1件。倒産の半分が、経営破綻というより「先生が倒れた」ことによるものでした。

参考:東京商工リサーチ「倒産と無縁の税理士業界に異変、2026年上半期は4件発生」(2026年7月25日)富山新聞「高岡の税理士事務所『税理士法人ホライズン』破産開始決定受ける」(2026年5月16日)

2. なぜ士業が倒産するのか──3つの理由

士業の廃業・倒産が増えている背景には、大きく3つの理由があります。

1つ目は価格競争です。日本税理士会連合会によれば、税理士の登録者数は令和8年8月末日現在で82,343人。会計ソフトの自動化やオンライン特化型の低価格サービスが広がり、記帳代行のような定型業務は単価が下がり続けています。件数を増やして単価の下落を埋めようとすれば、1件あたりにかけられる時間は減り、品質とチェック体制が犠牲になります。

2つ目は個人への依存と高齢化です。士業事務所の多くは、資格者本人の労働力そのものが商品です。日本税理士会連合会が令和6年4月に実施した第7回税理士実態調査(回答数38,607件、回答率44.8%)でも、業界の高齢化と後継者の問題は繰り返し指摘されています。先ほどの倒産4件のうち2件が代表者の死去・体調悪化であったことは、この構造をそのまま示しています。後継者のいない一人事務所は、先生の健康問題がそのまま「事業停止」になります。

3つ目はコンプライアンス違反です。給付金の不正受給の指南、脱税への関与、預り金の使い込みといった問題は、資格の停止・取消しに直結し、事務所は一夜で機能を失います。そして怖いのは、その処分の巻き添えを、顧問先の会社が食らうことです。指南に乗って給付金を受け取っていれば、会社自身が返還や刑事責任の問題に直面します。

POINT:見るべきは「事務所の年数」ではなく「体制」

創業70年でも破産します。長さより、担当者が倒れたときに代わりがいるか、業務が個人の頭の中ではなく仕組みで回っているか。ここが会社にとっての実質的な安全性です。

参考:日本税理士会連合会「税理士登録者数」(令和8年8月末日現在)日本税理士会連合会「第7回税理士実態調査報告書」

3. 顧問先の会社が受ける4つのダメージ

ここからが本題です。顧問の士業が突然いなくなると、会社には次の4つのダメージが降りかかります。

(1) 申告と届出が止まり、加算税・延滞税・青色取消しにつながる

いちばん重いのがこれです。決算・申告の期限は、事務所の都合では1日も延びません。期限に間に合わなければ期限後申告となり、無申告加算税が課されます。税額のうち50万円までは15%、50万円超300万円までは20%、300万円超は30%(調査後の申告の場合。調査通知前に自主的に申告すれば5%など、時期により軽減されます)。あわせて延滞税もかかり、令和8年中は納期限の翌日から2か月までが年2.8%、それ以降は年9.1%です。

さらに見落とされがちなのが、青色申告の承認取消しです。国税庁の事務運営指針は、2事業年度連続して期限内に法人税の確定申告書の提出がない場合に、法人税法127条1項4号により承認を取り消すものとしています。青色申告が取り消されれば、赤字を将来の黒字と相殺する欠損金の繰越控除や各種の特別償却・税額控除が使えなくなり、影響は数年に及びます。「先生がいなくなったから」は、税務署に対する言い訳になりません。

参考:国税庁「No.2024 確定申告を忘れたとき」(無申告加算税)国税庁「No.9205 延滞税について」国税庁「法人の青色申告の承認の取消しについて」(事務運営指針)

(2) 帳簿・書類・データが返ってこない

顧問契約は法律上「委任」にあたり、受任者が破産手続開始の決定を受ければ、委任は終了します(民法653条2号)。受任者は委任事務の処理状況を報告し(645条)、預かっていた物や受け取った金銭を引き渡さなければなりません(646条)。法律上、帳簿や証憑は返してもらえる建前です。

問題は、事務所が閉鎖され、担当者が退職し、破産管財人の管理下に入った状態では、原本の所在を突き止めて回収するまでに相当な時間がかかることです。その間も、帳簿書類を保存する義務は会社側にあります。法人税法上は原則7年(欠損金がある事業年度は10年)、会社法上も会計帳簿とその事業に関する重要書類を10年間保存しなければなりません(会社法432条2項)。税務調査で「税理士に預けていたので出せません」は通用しません。

クラウド会計のIDや、e-Tax・eLTAXの利用者識別番号と暗証番号を事務所側が管理していた場合も要注意です。連絡が取れなくなると、自社の申告データにアクセスできず、再取得の手続から始めることになります。

POINT:原本を預けっぱなしにしない

通帳・契約書・請求書の原本は自社で保管し、事務所には写しかスキャンデータを渡す。会計データは自社名義のクラウドに置き、士業には閲覧・編集権限を付与する。この形にしておけば、事務所が止まっても会社は止まりません。

(3) 進行中の交渉・訴訟が「止まらないまま」置き去りになる

弁護士の場合、より時間的な余裕がありません。訴訟代理人が辞任したり廃業したりしても、それ自体は訴訟手続の中断事由ではありません。民事訴訟法124条1項が中断事由として定めているのは当事者の死亡や合併などであり、代理人がいなくなったことは含まれていないからです。裁判所の期日はそのまま進み、主張や証拠の提出期限も動きません。新しい弁護士を探し、記録を引き継ぎ、事案を理解してもらうまでの空白が、そのまま不利益になります。

預けている着手金・預り金や、証拠の原本の返還も問題になります。弁護士法人の社員は、法人の財産で債務を完済できないときは連帯して弁済の責任を負うとされていますが(弁護士法30条の15)、法人も個人も破産していれば、現実の回収は容易ではありません。

参考:e-Gov法令検索「民事訴訟法」(124条)e-Gov法令検索「弁護士法」(30条の15)e-Gov法令検索「民法」(645条・646条・653条)

(4) 損害が出ても、回収できるとは限らない

誤った申告で加算税を課された、期限を落として特例が使えなくなった。こうした場合、税理士に対する損害賠償請求は理屈としては可能です。税理士法人の社員は、法人の財産で債務を完済できないときは連帯して弁済の責任を負うとされており(税理士法48条の21、会社法580条1項の準用)、法人が破産しても社員個人に請求できる余地は残ります。

ただし、事務所が破産に至っている状況では、社員個人も同時に破産していることが多く、判決を取っても回収できないという結末は珍しくありません。実務上の担保になるのは、税理士職業賠償責任保険・弁護士賠償責任保険への加入の有無です。契約前に確認しておく価値があります。

参考:e-Gov法令検索「税理士法」(48条の21)e-Gov法令検索「会社法」(432条・580条)e-Gov法令検索「法人税法」(126条・127条)

4. 士業の選び方と、契約の作り方

ここまでのリスクは、事務所を選ぶ段階と契約を作る段階で、かなりの部分を潰せます。最低限、次の6点を押さえてください。

  1. 担当者が1人に依存していないか:担当者が休んだとき、代わりに答えられる人がいるか。法人か個人か、番頭役の資格者がいるか。事務所の規模ではなく、代替性を見ます
  2. 原本とIDは会社が持つ:通帳・契約書・証憑の原本は自社保管。会計クラウドとe-Tax・eLTAXのIDは会社名義で取得し、権限を付与する形にする
  3. 顧問契約書に終了時の条項を入れる:契約終了・事務所の業務停止の場合の、預り資料の返還期限、データの引渡形式(PDFだけでなく会計データ本体)、後任への引継ぎ協力、秘密保持を明記する
  4. 賠償責任保険の加入を確認する:税理士・弁護士とも職業賠償責任保険があります。加入の有無と、おおよその補償の範囲を契約前に聞いておく
  5. 期限のカレンダーを会社側でも持つ:決算・申告・年末調整・社会保険の届出・株主総会など、期限は自社の管理表にも書く。任せていても、最終責任は会社にあります
  6. 連絡が取れなくなったときの初動を決めておく:数日連絡がつかない場合は、所属する税理士会・弁護士会に照会し、必要に応じて所轄の税務署や裁判所に事情を説明して、後任を早急に立てる

そして、変えるべきときには変えることです。レスポンスが極端に遅い、担当者がころころ変わる、質問への回答が毎回あいまい、事務所の内部で何が起きているのか見えない。こうした兆候は、事務所側の経営が苦しくなっているサインであることがあります。顧問は「付き合いの長さ」で選ぶものではなく、会社を止めないための体制で選ぶものです。

POINT:税理士と弁護士は「つながっている」方がよい

顧問税理士に何かあったとき、税務の話だけで終わらないケースは多くあります。契約の巻き直し、資料の返還請求、給付金や税務処理の適法性の検証まで、士業同士が連携していれば復旧は早くなります。

まとめ

  1. 創業70年の税理士法人が破産する時代。2026年上半期の税理士事務所の倒産は4件で、1993年以降で上半期最多。うち2件は代表者の死去・体調悪化によるもの
  2. 顧問がいなくなると、申告が止まって無申告加算税・延滞税・青色申告の取消しにつながり、帳簿は戻らず、訴訟の期日だけが進む。保存義務も最終的な責任も会社にある
  3. 備え方は明確。原本とIDは会社が持ち、顧問契約書に返還・引継ぎ条項を入れ、期限は自社でも管理し、担当者1人に依存しない事務所を選ぶ

専門家に任せることは、責任まで預けることではありません。任せている業務ほど、いなくなったときの穴が大きくなります。顧問契約の内容や、資料・データの持ち方の見直しは、平時にしかできない作業です。顧問弁護士がいれば、契約書の点検から、万一のときの資料回収・後任への引継ぎ・損害の検討まで、日常の延長として進められます。

※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。個別の倒産事例は報道等に基づく概要です。情報は2026年9月時点のものです。

弁護士 越水遥
この記事の執筆者

弁護士法人越水法律事務所 代表弁護士。東京大学法学部卒業、西村あさひ法律事務所を経て現職。企業法務・労務問題を中心に中小企業・スタートアップの経営を法務面から支援し、YouTube「守りの経営ch」で経営者向けの法律知識を毎日配信している。

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