いま御社で一番売上の大きい取引先。その会社が明日倒産したら、御社は何か月もちますか──。中小企業の社長には「取引先は選べない」「売上をくれる会社はありがたい」という方が多いのですが、売上をくれる会社と、付き合っていい会社は別物です。
しかも危険な取引先は、「いかにも怪しい会社」の顔では来ません。最初は注文が大きく、気前がよく、むしろ“いい取引先”の顔で来ます。牙をむくのは、あなたの会社がその売上なしでは回らなくなってから。本記事では、2026年7月に負債約1,151億円で破産した決済代行大手・全東信の実例から、決算書より早く出る「末期のサイン」と、契約前のチェック、正しい逃げ方までを解説します。
なぜ取引先1社で、会社が潰れるのか
数字にすると一発で分かります。利益率5%の会社が、取引先の倒産で売掛金500万円を貸し倒れたとします。これを利益で取り返すには、500万円÷5%=1億円の売上が必要です。たった1社の未回収が、1億円分の営業努力を一晩で消し飛ばす。しかも消えるのは利益ではなく現金です。帳簿が黒字でも、現金が尽きれば会社は死にます。
全東信のケースでは、破産管財人の公表によれば、7月5日までの未払いだけで約2万店・約53億円。報道では、北新地のバーで100万円近くが未回収になり、決済端末が止まってカードが使えず客足が4割減った店もあるとされています。入金が止まったうえに、売上まで落ちる──取引先の倒産は“ダブルパンチ”で来るのです。
絶対に取引してはいけない会社の特徴10選
①入金日をズラしてくる。②決めた金額を、あとから口頭でひっくり返す。③「契約書は堅苦しい」と言って注文書も残さない。④同業者が言葉を濁す。⑤会社ではなく「担当者個人」に見返りを求めてくる。⑥こちらの機密を私用アドレスやチャットに流す。⑦条件変更を「協議」ではなく「通知」で済ませる。⑧違法すれすれを「業界の慣習」と呼ぶ。⑨改善を求めても「前例がない」で終わる。⑩訪問のたびに担当者が変わる、とくに経理が続かない。
10個は覚えきれなくても大丈夫。3つのグループに整理できます。
グループA:お金の約束を守らない会社(①②⑦)
ポイントは“1日”です。危ない会社は、いきなり踏み倒したりしません。まず入金日を1日だけズラして、こちらが騒ぐかどうかを見る。やがて社長が電話に出なくなり、若い担当者が謝る係になります。そしてこれは、マナー違反ではなく法律違反です。発注側が一定の基準を満たせば代金は受領から60日以内に支払う義務があり、一方的な減額も通知だけの条件変更も、公正取引委員会の勧告・企業名公表の対象になり得ます。
グループB:ルールを守らない会社(③⑤⑥⑧)
弁護士として一番よく見る皮肉があります。「うちは信頼関係でやってるから、契約書なんていらないよ」──そう言っていた会社ほど、揉めた瞬間、一番早く弁護士を連れてきます。⑤の“担当者個人”への見返りは贈収賄や背任の入口で、応じた瞬間、あなたも共犯側です。
全東信もこのグループBでした。2024年1月、審査に通らない店の加盟店契約を他人名義で結んだとして社員らが逮捕され、会社も組織的犯罪処罰法違反の疑いで書類送検されました。覚えてほしいのは順番です。事件が信用不安を招き、資金調達が止まり、破産に至った。取引先のコンプラ違反は、いつか、あなたの売上金を巻き込んで爆発します。
グループC:人が逃げ出している会社(④⑨⑩)
今日の本題です。④の「同業者が言葉を濁す」は一番使える実務技。同業者に「あの会社どうですか」と聞いて、はっきり悪口を言う人はまずいません。でも、全員が言葉を濁したら、それが答えです。
そして⑩。会社のお金が本当に苦しいとき、真っ先に逃げるのは、内情を全部知っている経理担当者です。決算書が世に出るより1年早く、真実を知っていますから。訪問のたびに違う人が出てくる、折り返しが来ない、振込口座が毎回変わる──時限爆弾のタイマーが鳴っている音です。決算書は「1年前の写真」、人の動きは「生中継」。経理と担当者が短期間に続けて辞めた取引先は、必ず与信を見直してください。なお、この10選とは別格の最凶が、財務が極端に不透明な会社と、反社会的勢力・その関係企業です。
危ない会社は、末期に“営業”が変わる
「決算書は黒字だったのに」──では何を見ていれば助かったのか。答えは行動、特に営業のかけ方です。報道によれば、破産の約2か月前の5月、心斎橋の美容院に全東信の営業担当から“珍しく”電話がありました。「手数料が上がります」と。15年契約していたこのオーナーは「対応がいつもと違う」と感じ、すぐ他社の決済代行に切り替えて被害ゼロ。一方、6月上旬に同じ値上げの電話を受けた奈良の飲食店は「仕方ない」と受け入れ、その約1か月後の破産で売上金が未回収になったと報じられています。同じサインを受け取って、運命が分かれたのです。
POINT:プロの金融機関は見抜けず、現場の店主は“違和感”で見抜いた
63の金融機関は、20年間の粉飾を見抜けませんでした。決算書は黒字だったからです。でも現場の美容院オーナーは、決算書を1枚も見ずに「担当者の様子がおかしい」だけで見抜きました。末期のサインは、書類ではなく行動に出ます。
一般化すると、末期の会社に共通する営業の変化は7つです。①急な値上げ/急な大幅値引き(最後の集金・現金欲しさ)、②長期契約・年間前払い・保証金の要求(前受金が欲しい)、③「今月中に」と異様に急かす、④審査・条件が急に甘くなる、⑤借入先が増える(登記の担保設定で分かる。全東信は金融機関63社)、⑥信用調査の取材・決算書の開示を断る、⑦担当者・経理が辞めて連絡がつかなくなる──最後は10選の⑩と同じですね。
特に④は要注意。全東信は「うちなら審査が通る」という評判で拡大したと報じられています。裏を返せば、他社が断ったリスクを一手に引き受けていたということ。あなたに甘い条件を出す会社は、他の誰かにも同じことをしています。
契約前の3チェック+α
① 登記。履歴事項全部証明書は1通600円程度。商号・本店・代表者の変遷と、担保設定が増えていないかが見えます。1〜2年で何度も動く会社は、何かから逃げている可能性がある。600円で買える一番安い保険です。② 信用調査。帝国データバンク・東京商工リサーチで財務・評点・支払い実績を確認し、同業者に「あの会社、支払いどうですか?」と聞く。③ 反社チェック。社名+「裁判」「破産」「未払い」で検索し、契約書には必ず暴排条項を。
そして今回の教訓がもう1つ。決済代行やファクタリングのように“お金を預ける”相手には、売上金の分別管理・倒産隔離の有無を契約書で確認してください。全東信は、加盟店の売上金と会社のお金が同じ財布に入っていたと指摘されています。お金は、混ざった瞬間に“あなたのお金”ではなく、ただの債権になります。
武器と、正しい“逃げ方”
まず武器。2026年1月1日、下請法が生まれ変わり「中小受託取引適正化法(取適法)」が施行されました。約束手形での支払いは禁止。価格協議に応じない一方的な代金決定も禁止で、「値上げの話し合いを無視される」こと自体が違法になりました。従業員数基準の追加で対象も拡大し、グループAのような行為は公正取引委員会・中小企業庁に申告できます。
守りは3つ。与信限度額を決める。1社への売上依存が3割を超えたら黄色信号。そして経営セーフティ共済。取引先の倒産時に、無担保・無保証・無利子で掛金の10倍、最高8,000万円まで借りられます。ただし貸付には加入から6か月以上・6か月分以上の納付が必要。被害が出てから入っても間に合いません。
最後に、縁の切り方。「相手が悪いんだから、明日からもう取引しません」──実はこれが今日一番怖い話で、それをやると逃げたあなたの方が訴えられることがあります。裁判例では、長年続いた取引の突然の打ち切りが信義則に反するとされ、打ち切った側に損害賠償が命じられたケースがある。相手が悪いことと、あなたの“切り方”が適法であることは別問題です。だから撤退は設計。解約条項を確認し、書面で通知し、予告期間を置いて段階的に縮小する。ここは弁護士と組んでください。
まとめ
- 売掛金500万円の貸倒れは売上1億円分の損失(利益率5%の場合)。消えるのは現金なので、黒字でも会社は潰れる。危ない取引先は「お金の約束を守らない」「ルールを守らない」「人が逃げ出している」の3グループで見抜く
- 末期の会社は営業が変わる。急な値上げ・前払い要求・異様な急かし・急に甘い審査・借入先の増加・開示拒否・担当者の連絡不能の7つが重なったら与信を即見直す。「うちなら審査が通る」は他社が断ったリスクを抱えているサイン
- 契約前は登記600円・信用調査・反社チェックの3点+“お金を預ける相手”には分別管理・倒産隔離の確認を。支払遅延には取適法で対抗、備えは与信限度額・依存度3割ルール・経営セーフティ共済。撤退は突然切らず、書面通知+予告期間+段階的縮小で設計する
取引先リスクは、被害が出てからでは打てる手が激減します。「あの会社、最近ちょっと様子がおかしい」と感じた時点で動けるかどうかが、会社の生死を分けます。
参考:東京商工リサーチ 破産の全東信、20年前から粉飾決算か/東京商工リサーチ 全東信の破産、焦付不可避と機会損失/帝国データバンク 倒産速報 株式会社全東信/公正取引委員会 中小受託取引適正化法(取適法)関係/中小機構 経営セーフティ共済
※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別企業に関する記述は公表情報・報道に基づきます。個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。情報は2026年8月時点のものです。
← 動画記事一覧へ戻る