税務・コンプライアンス

その節税対策が税務調査を呼ぶ
──ネットで人気の“節税”に潜む重加算税・脱税罪のリスク

「社宅に住めばほぼタダ」「会社を分ければ税金が安くなる」「社員を外注にすれば社会保険料が浮く」──SNSやネット記事で、こうした“節税テクニック”を見かけたことはありませんか。結論から言うと、ネットで人気の節税ほど、税務調査を呼び込むリスクを抱えています。使い方を一歩間違えれば、本来の税金に重加算税が上乗せされ、最悪の場合は「脱税」として刑事罰の対象にすらなります。

なお、具体的な税額の計算や申告実務は税理士の領域です。本記事では弁護士の視点から、「どこからが違法になるのか」という境界線と、超えてしまったときに何が起きるのかを、動画の流れに沿って解説します。

「節税」と「脱税」の分かれ目は、“ウソ”があるかどうか

まず大前提の整理です。税法が用意した制度を、実態どおりに使って税負担を減らすのが「節税」。これは合法です。一方、事実を仮装・隠蔽する──つまりウソをつくのが「脱税」側の世界です。

ウソがあると認定された場合のペナルティは段階的に重くなります。

参考:国税庁「令和6年度 査察の概要」(PDF)

一発アウトの脱税──売上除外・架空経費に「うっかり」はない

動画の前半で扱っているのが、弁明の余地がない「一発アウト」の類型です。家族旅行や個人の買い物を経費にする公私混同、実態のないコンサル料・人件費などの架空経費、売上を帳簿に載せない・翌期にずらす売上除外、そして二重帳簿・隠し口座・無申告──これらは節税テクニックではなく、仮装・隠蔽そのものです。

「申告しなければバレない」も通用しません。税務署は、社長個人の口座や銀行窓口での手続き履歴まで調べる権限を持っており、実地調査などで高い確率で発覚します。国税不服審判所の裁決でも、売上を除外して代表者名義の口座に隠した事案には、7年の遡及と重加算税が繰り返し認められています。実務では、追徴で銀行融資が止まって倒産したり、社員の士気が落ちて離職につながる例もあります。目先の数百万円のために、会社の信用と経営者自身の人生を賭けるようなものです。

人気の「社宅節税」「複数会社スキーム」の罠

次に、制度としては合法なのに、使い方を誤って“脱税側”に踏み込んでしまうグレーゾーンの代表例です。

役員社宅のポイントは2つ。①会社が借主となって、会社が大家に家賃を支払うこと、②役員から国税庁の定める「賃貸料相当額」をきちんと徴収することです。この2つがそろって初めて、会社負担分が給与として課税されずに済みます。社長個人が契約して会社があとから補填する形だと、補填分はまるごと給与とみなされます。小規模な住宅なら賃貸料相当額は固定資産税の課税標準額をもとにした算式でかなり低額に抑えられますが、床面積240㎡を超えるような「豪華社宅」はそもそも優遇が使えず、通常支払うべき家賃(時価)で計算されます。現金で支給する住宅手当や役員本人名義の契約も、全額が給与課税です。

会社を複数つくるスキームも同様です。黒字のA社から赤字のB社へ「外注費」を払って利益を圧縮する──しかし税法には「実質課税の原則」があり、実態のない会社間取引は架空経費として全額否認されます。相場とかけ離れた価格設定も狙われます。しかも会社を分けると、赤字でもかかる法人住民税の均等割が最小規模でも年約7万円、会社の数だけ発生し、税理士報酬も倍増。将来、株式の評価が上がって相続税が跳ね上がるリスクもあり、節税どころか本末転倒になりがちです。

POINT:「制度が合法」と「自社の使い方が合法」は別問題

社宅も分社も、制度自体は国が認めたものです。問題は、実態がその制度の要件に合っているか。税務調査で問われるのは「なぜこの形にしたのか」を実態に即して説明できるかどうかです。説明が「税金が安くなると聞いたから」だけなら、危険信号だと考えてください。

「月給を下げて賞与に寄せる」──事前確定届出給与スキームの罠

動画の後半でまず警鐘を鳴らしているのが、月給を極端に低く(たとえば月5.8万円に)張り付け、事前に届け出た高額の賞与(たとえば573万円)を年1〜2回支給して、社会保険料の上限の仕組みを突く「事前確定届出給与」スキームです。税務署だけでなく、年金事務所や労基署からもマークされる超ハイリスク領域です。

致命的な弱点があります。事前確定届出給与は、届け出た「支給日」と「支給金額」のとおり、1日・1円の狂いもなく支給して初めて損金になる制度です(法人税法34条)。届出と1円でも違う額を払えば、差額ではなく賞与の全額が損金不算入。しかも業績が悪化しても、減額も不支給も原則やり直しが利きません。月給を最低ラインまで下げているため、賞与を出せなければ社長の生活費すら確保できず、かといって減らせば全額否認──動くも地獄、動かぬも地獄です。否認されれば会社は法人税を追徴され、社長個人は受け取った給与として課税される、最悪のダブルパンチが待っています。

「社員を外注に」──契約書ではなく“実態”で判定される

続いて動画が取り上げるのが、社員を退職させて個人事業主にし、契約を「給与」から「外注費」に切り替えて、会社の社会保険料負担や消費税を削るやり方です。いわゆる偽装外注・偽装フリーランス問題ですね。

契約書がどうあれ、実態が「雇用」なら法律上は完全に「労働者」と判定されます。基準を示したのが最高裁昭和56年4月24日判決で、仕事の依頼を断る自由があるか、勤務時間や場所を拘束されていないか、指揮命令を受けていないか、他人が代わりにやってもよいか、報酬が時間給的でないか──これを厚生労働省の「労働者性の判断基準」と合わせて総合的に見られます。実際、社会保険料の天引きを嫌がった従業員2名を「外注先」に切り替えた塗装工事会社について、東京地裁令和3年2月26日判決は「実態は従業員と同じで、時間的・場所的な拘束を受け、指揮命令に服していた」として支払いを給与と認定し、消費税の仕入税額控除を全額否認しました。否認されると、消費税の控除取り消し、源泉徴収漏れ、延滞税・重加算税と、会社が傾くほどの損失になります。

弁護士が考える「正しい税金対策」

では、何をすればよいのか。動画の結論は明快で、正しい税金対策とは単なる資金の無駄遣いではなく、「会社の将来の成長につながる投資を、前倒しで行うこと」です。

まとめ

  1. 実態のない取引や公私混同は、節税ではなく脱税。7年の遡及課税、重加算税35〜40%、悪質なら刑事罰まであり得る
  2. 社宅・複数会社・事前確定届出給与・外注化などの人気スキームは法的要件が極めて厳しく、1円・1日のミスやエビデンス不足で一発否認される
  3. 正しい税金対策は「成長投資の前倒し」と「証拠を100%残すこと」。実行前に税理士と弁護士の両視点でチェックする

ネットの節税情報は「うまくいった人の話」しか流れてきません。その裏で、税務調査で追徴され、資金繰りを壊した会社が確実に存在します。自社の“節税”が境界線のどちら側にあるか、一度立ち止まって確認してみてください。

参考:法人税法(e-Gov法令検索)国税通則法(e-Gov法令検索)国税庁 タックスアンサー No.2024 確定申告を忘れたとき同 No.2600 役員に社宅などを貸したとき同 No.5211 役員に対する給与同 No.7456 国外財産調書の提出義務国税庁「令和6年度 査察の概要」(PDF)

※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事案については弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。情報は2026年8月時点のものです。

弁護士 越水遥
この記事の執筆者

弁護士法人越水法律事務所 代表弁護士。東京大学法学部卒業、西村あさひ法律事務所を経て現職。企業法務・労務問題を中心に中小企業・スタートアップの経営を法務面から支援し、YouTube「守りの経営ch」で経営者向けの法律知識を毎日配信している。

税務・経営に効く法律知識はYouTubeで毎日配信中

公式LINEでは、YouTubeでは話せない“ここだけの裏話”と「経営法務のガイドライン」を無料でお届け中。

LINE友だち追加はこちら
← 動画記事一覧へ戻る

TOP