財務・資金繰り

定期預金は頼まれても絶対やめておいて!銀行・信用金庫が定期預金を勧めてくる真相|
3,000万円借りて2,000万円預けたら実質金利3%──「保全」の正体、独占禁止法上アウトになるライン、関係を壊さない断り方4ステップ

融資を受けてしばらくすると、担当者がにこやかにやって来て「定期預金をお願いできませんか」。「いつもお世話になっているし、断ったら次の融資に響くかも」と、言われるまま定期預金を組んでしまった──そんな社長は少なくありません。実際、公正取引委員会が金融機関と借り手企業の取引慣行を調べた調査では、借り手企業の27.2%が「金融機関からの要請を断りにくい」と感じていると答えています。約4社に1社です。

結論から言うと、定期預金を勧められること自体は違法でも何でもありません。ただ、会社側のメリットを冷静に考えると、安易に組むべきではない。最悪のケースでは、業績が悪化して本当に現金が必要になったときに定期預金が自由に使えず、資金繰りがさらに苦しくなります。そして、断れない状況の作られ方によっては、金融機関側が独占禁止法違反を問われるラインもあります。本記事では、動画の内容をもとに、①なぜ銀行は定期預金を勧めるのか、②本当に自由に解約できるのか、③どこからが「強制」なのか、④どう対応すべきか──の4つの質問に答える形で整理します。

参考:公正取引委員会「金融機関と企業との取引慣行に関する調査報告書(平成23年フォローアップ調査)」

1. なぜ銀行・信用金庫は定期預金を勧めるのか──答えは「保全」

「預金を集めるのが銀行の仕事だから、営業成績のため」。それも正解の一つですが、一番大きいのは保全、つまり貸したお金の回収リスクを減らすためです。

よくあるご相談がこうです。ある会社が信用金庫から3,000万円の無担保融資を受けた。その1か月後に担当者が来て「2,000万円を1年の定期預金で預けてもらえませんか」。会社側は「お礼として付き合ってもいい」と感じがちですが、金融機関から見ると、3,000万円を貸して2,000万円を自分のところの定期預金で預かっていれば、万一この会社が返せなくなっても手元に2,000万円がある。実質的なリスクは大きく減ります。このお願いは、会社の資金繰りのためではなく、金融機関側の保全の意味合いが強いのです。

さらに金融機関側には、融資残高を維持したまま預金残高も増えるので支店の営業実績になる、低い金利で預かったお金を元手に商売ができるので収益にもつながる、というメリットもあります。三重においしい話です。一方、会社側のメリットは、ほぼありません。今の定期預金の金利で得られる利息はわずかで、次に見るように、むしろ損をする構造になっています。

POINT:判断基準は「お願いされたから」ではなく「うちにメリットがあるか」

金融機関側は「保全+営業実績+収益」、会社側は「メリットほぼナシ」。この非対称を知ったうえで、余剰資金があり、金利や期間に納得して、自由な意思で契約するなら普通の金融取引です。そうでないなら、付き合いだけで組む理由はありません。

2. 定期預金は本当に自由に解約できるのか

「いざとなったら解約すればいいだけでは?」。形式的には、満期前でも中途解約はできます。ただ、普通預金のように振込や引き出しで即座に使えるお金ではなくなります。そして本当に怖いのは、解約したくなるタイミングです。

会社が定期預金を崩したくなるのは、納税、賞与、急な設備の故障──つまり資金繰りが苦しいときです。そしてそのときは、金融機関が会社を一番シビアに見ているときでもあります。融資を受けている金融機関に「定期を解約したい」と申し出れば、「業績が厳しいのかな」と受け取られる。実務では、そのタイミングで「解約するくらいなら、その定期預金を借入金の返済に充てませんか」と提案されることもあります。「いざという時のためのお金」のつもりが、いざという時に自由に使えないお金になっている。これが定期預金の一番のリスクです。

数字で見る「実質金利」の衝撃

もう一つ、数字で見ると衝撃的な話があります。3,000万円を金利1%で借りたとすると、年間の利息は30万円。ここで2,000万円を定期預金にすると、会社が自由に使えるお金は実質1,000万円だけです。でも利息は3,000万円分、つまり30万円を払い続ける。使える1,000万円に対して30万円払っているのですから、実質金利は3%相当です。見かけの金利は1%でも、定期預金のわずかな利息を差し引いても、この構図はほとんど変わりません。

借入の一部を預金で寝かせるというのは、それだけで実質金利を引き上げる行為です。「金利が低いから安心」ではなく、「実際に使えるお金に対して何%払っているか」で見てください(いずれも単純化した概算です)。

3. どこからが「強制」と判断されるのか──独占禁止法のライン

ここが今日一番大事なところなので、はっきり整理します。金融機関が定期預金を提案すること自体は、違法ではありません。「定期預金を勧められた=違法」では絶対にない。ここは誤解しないでください。

法律上問題になるのは、形式上は「お願い」でも、融資と結び付けられて、実際には断れない状況が作られているケースです。根拠は独占禁止法2条9項5号。自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、商品や役務を購入させたり、経済上の利益を提供させたり、不利益となるように取引条件を設定・変更したりする行為──いわゆる優越的地位の濫用として、不公正な取引方法の一つに位置付けられ、同法19条で禁止されています。

具体的には、「定期預金を作ってもらえれば、次の融資も話を進めやすくなります」「協力してもらえないと、今後のお付き合いが難しくなります」といった言い方です。応じなければ融資を減らす、金利や返済条件を不利にする、次回の融資に影響する──こうしたことを示唆して要請に応じさせるのは、独占禁止法上問題になり得る行為です。公正取引委員会の金融機関向けガイドラインも、融資先企業に対し「自己と取引しない場合には融資を取りやめる旨又は融資に関し不利な取扱いをする旨を示唆」して取引を余儀なくさせる行為を、独占禁止法上問題となる行為として明示しています。優越的地位の濫用に関する公正取引委員会の考え方でも、大手銀行が融資先に対し、金利スワップの購入が「融資条件である」と明示するなどして購入を余儀なくさせた事案(平成17年12月26日勧告審決)が、具体例として挙げられています。

さらに、融資とセットで預金を積ませる、いわゆる「歩積み・両建て預金」は昔から問題視されてきました。金融庁の監督指針でも、「過度な協力預金、過当な歩積両建預金等の受入れ」は正常な取引慣行に反する不適切な取引として、監督上のチェック項目に挙げられています。金融機関側も「やってはいけないこと」だと分かっている行為なのです。

POINT:露骨な脅し文句がなくても、借り手は「空気」で断れない

公正取引委員会の調査では、意思に反して金融機関の要請に応じた企業のうち52.1%が、その理由を「次回の融資が困難になると思ったため」と答えています。実際に違法かどうかは、金融機関と会社の力関係、融資への依存度、担当者の具体的な発言、預金額や拘束期間、会社が受ける不利益などを総合的に見て判断されます。「言われた言葉」と「置かれた状況」をセットで見る──だからこそ、次に述べる記録が大事になります。

参考:e-Gov法令検索「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(2条9項5号・19条)公正取引委員会「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」公正取引委員会「金融機関の業態区分の緩和及び業務範囲の拡大に伴う不公正な取引方法について」金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」(II-3-1-7-2)

4. 定期預金をお願いされたら、どう対応するか──4ステップ

関係は壊したくない。でも安易に組みたくない。そのために、やることは4つです。

  1. その場で即答しない。「社内で検討します」と持ち帰る。これだけで、雰囲気に流されて契約することを防げます。
  2. 「これは融資の条件ですか?」と確認する。この一言はとても効きます。条件でないなら、断っても融資に影響しないことが確認できる。逆に「条件です」「影響します」という趣旨の答えが返ってきたら、それはまさに独占禁止法上問題になり得るラインです。
  3. やり取りを記録に残す。面談の日時と担当者の発言をメモし、できれば「先日のお話の確認ですが」とメールで送って書面化しておく。万一トラブルになったとき、会社を守るのは記録です。
  4. 実質的に断れない状況だと感じたら、一人で抱え込まずに相談する。金融庁の「金融サービス利用者相談室」(0570-016811・平日10時〜17時)は預金・融資に関する相談を受け付けています。顧問弁護士がいれば、金融機関との交渉方法まで含めて相談できます。

「余裕資金を手元に置くと使ってしまいそう」という社長へ

その場合は、定期預金ではなく、融資を受けていない別の銀行や信用金庫に普通預金として置いておくのがおすすめです。普段使う口座と分離できるのに、必要なときは自由に使える。しかも、別の金融機関にまとまった預金があると「この会社は資金繰りに余裕がある」と見られて、その金融機関から融資の提案が来ることもある。つまり、いざという時の第二の調達先──サブバンクを育てることにもつながります。一行だけに依存しているから断れない。この構造自体を変えていくのが、一番の防御策です。

参考:金融庁「金融サービス利用者相談室」

まとめ

  1. 定期預金の提案自体は適法。でも判断は「実質金利」で。金融機関側には保全と実績のメリット、会社側にはほぼメリットがない。3,000万円借りて2,000万円預ければ実質金利3%相当。「実際に使えるお金に対して何%払うか」で判断する。
  2. 危ないのは融資と結び付けられたとき。「作ってくれれば次の融資も」「協力しないと今後は」は、独占禁止法の優越的地位の濫用が問題になり得るライン。「融資条件ですか?」と確認し、やり取りは記録に残す。
  3. 余剰資金は融資を受けていない別行の普通預金へ。サブバンクを育てて、「断れない構造」そのものを変えていく。

金融機関が悪者という話ではありません。金融機関は中小企業にとって大事なパートナーです。ただ、パートナーだからこそ、対等に付き合うための知識が要る。「銀行との付き合い方」は、資金繰りの相談の入り口として顧問先からよく聞かれるテーマで、融資契約書のチェック、担保や保証の外し方、金融機関との交渉は、弁護士が入ると話が早い分野です。金融機関から気になるお願いをされたとき、契約書にサインする前に顧問弁護士に一本電話で相談できる。月数万円の顧問契約で、数百万円、数千万円単位の資金拘束を防げることも珍しくありません。「サインする前」の相談が、いちばん安い予防策です。

※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。実質金利の計算は単純化した概算です。法令・統計は公正取引委員会・金融庁・e-Gov法令検索の公表資料(2026年8月時点)に基づきます。

弁護士 越水遥
この記事の執筆者

弁護士法人越水法律事務所 代表弁護士。東京大学法学部卒業、西村あさひ法律事務所を経て現職。企業法務・労務問題を中心に中小企業・スタートアップの経営を法務面から支援し、YouTube「守りの経営ch」で経営者向けの法律知識を毎日配信している。

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