「資本金って、ぶっちゃけ300万円くらいでいいんでしょうか」。起業を考える方から、よくいただく質問です。結論から言えば、300万円はかなり現実的で、いいスタートラインです。国税庁の会社標本調査(令和6年度分)によると、日本の法人は約300万社。そのうち資本金1,000万円以下の会社が87.5%を占めます。300万円前後は、まさに中小企業のど真ん中なのです。
ただし、「法律上は1円でも会社を作れるなら、1円でよくない?」──これだけは、弁護士として全力で止めます。本記事では動画の内容をもとに、1円起業がダメな理由から、業種別の目安、社長個人の財布を痛めずに会社の信用を上げる「増資の裏ワザ」、そして絶対に踏んではいけない「1億円の地雷」まで、順番に解説します。
「1円起業」を弁護士が全力で止める理由
会社法上、資本金1円でも株式会社は設立できます。それでも止める理由はシンプルで、会社は作るだけでお金がかかるので、1円では初日から詰むからです。株式会社の設立登記には、登録免許税だけで最低15万円かかります。定款の認証手数料などを合わせると実費は約20万円、司法書士への報酬まで含めれば25万〜30万円ほど。資本金1円だと、設立した瞬間に実質債務超過スタートです。
足りない分は社長個人が会社に貸す「役員借入金」で回すことになりますが、それが決算書に載ると、銀行は「この会社、体力がなさすぎるのでは」と警戒します。最悪の場合、マネーロンダリング対策の審査で法人口座すら作れず、取引先の与信審査で落とされることもあります。
さらに見落としがちなのが許認可の壁です。例えば宅建業は、営業保証金として本店分1,000万円の供託が必要です(保証協会に加入する場合でも弁済業務保証金分担金60万円)。一般建設業の許可には自己資本500万円以上(500万円以上の資金調達能力の証明でも可)、有料職業紹介事業には事業所ごとに基準資産500万円が求められます。業種によっては、資本金が薄いとスタートラインにすら立てないのです。だからこそ、最低3ヶ月分の運転資金をカバーでき、対外的な信用も保てる「300万円前後」が現実的な目安になります。
参考:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」/宅地建物取引業法(e-Gov法令検索)
業種別の目安──「初期費用+3ヶ月分の運転資金」から逆算する
どの業種でも300万円で大丈夫、というわけではありません。目安は業種で変わります。
- 飲食店・美容室などの小規模サービス業:300万〜500万円で十分
- パソコン1台で始められるIT系:100万円程度からでも可
- 製造業・建設業・輸出入業:設備投資や大きな仕入れが必要なため、最初から1,000万円以上が望ましい
設備が要る業種で資本金が薄いと、取引先は「この規模の発注、本当に受けきれるのか」と不安になります。事業計画を作り、「初期費用+売上ゼロでも3ヶ月耐えられる運転資金」から逆算する。これが鉄則です。
「1,000万円の壁」──免税メリットと、あえて超える戦略
税金の面では、資本金1,000万円が大きな壁になります。資本金1,000万円未満なら、設立当初の消費税が原則免税になります(ただし、インボイス発行事業者として登録すると課税事業者になるほか、設立1期目上半期の売上や給与が1,000万円を超えると2期目から課税されるといった例外もあるため、必ず税理士に確認してください)。赤字でも毎年かかる法人住民税の均等割も、最低ラインの年7万円で済みます。1,000万円以上にすると設立当初の免税メリットが消え、さらに1,000万円を超えると均等割は年18万円へ──年間で約11万円のコスト増です。
POINT:利益が出てきたら、あえて「1,000万円超」に増資する
87.5%の会社が資本金1,000万円以下。つまり1,000万円を超えるだけで、資本金の見た目では全法人の上位およそ13%に入れます。新規の取引先も求職者も、会社のホームページで真っ先に資本金の欄を見ます。年11万円のコスト増で「財務がしっかりした会社」というPRを買えるなら、求人広告に数百万円かけるよりはるかに安い投資です。
社長の財布を痛めない増資の裏ワザ──利益剰余金の資本組入れ
すでに300万円で作った会社が、社長個人のお金を追加で出さずに1,000万円超へ増資する方法があります。忘れている経営者が本当に多いのですが、会社がこれまで稼いで貯めてきた「利益剰余金」を資本金に振り替える手続き──利益剰余金の資本組入れです。会社法450条に基づく正式な手続きで、株主総会の決議をして法務局で登記をすれば、登記簿上の資本金は堂々とアップします。
コストは、増資額の0.7%の登録免許税(最低3万円)と、司法書士への報酬2万〜3万円程度。純資産の総額自体は変わらないので、既存の取引銀行の評価が劇的に上がるわけではありませんが、新規の取引先・求職者・新規の金融機関に対する「見た目の信用」は確実に買えます。1点だけ注意。手っ取り早く外部から出資を受ける「第三者割当増資」は、後々の経営権トラブルの火種になりがちです。上場を目指すのでなければ、社長100%株主のまま、この方法でスマートに増資してください。
絶対に踏んではいけない「1億円の地雷」と「5,000万円のライン」
「信用が上がるなら、思い切って1億円まで増資しては?」──それは絶対にストップです。資本金が1億円を超えると、交際費を年800万円まで損金にできる特例をはじめ、中小企業向けの税制優遇がすべて消えます。さらに、赤字でも課税される外形標準課税の対象になり、税務調査の担当も税務署から国税局に変わって、調査の厳しさがケタ違いになります。
しかも令和6年度の税制改正で、「一度大きくした会社が減資して1億円以下に戻す」という逃げ道も封じられました。前の事業年度に外形標準課税の対象だった会社は、資本金と資本剰余金の合計が10億円を超えている限り、資本金を1億円以下に減資しても対象のままです(2025年4月以後に開始する事業年度から適用)。加えて、小売業・サービス業では、資本金が5,000万円を超えると、従業員数の基準(小売業50人以下・サービス業100人以下)を満たさない限り信用保証協会の保証が使えなくなる点にも注意が必要です。だから賢い経営者は、上限ラインの一歩手前で止めるのです。
参考:総務省「法人事業税における外形標準課税」/中小企業庁「中小企業の定義について」
まとめ
- 資本金1円でも会社は作れるが、設立費用だけで約20万〜30万円かかり「1円起業」は初日から実質債務超過。許認可の資本要件(宅建業1,000万円・建設業500万円など)も先に確認し、「初期費用+3ヶ月分の運転資金」から逆算して300万〜1,000万円未満のレンジでスタートする
- 資本金1,000万円未満なら消費税免税・均等割年7万円のメリットを取り切れる。利益が貯まったら、利益剰余金の資本組入れ(会社法450条)で身銭を切らずに1,000万円超へ増資し、「全法人の上位約13%」の信用を獲得する
- 資本金1億円超は中小企業税制の喪失+外形標準課税の地雷。令和6年度改正で減資による回避も封じられた。5,000万円・1億円のラインを超えるか否かは、顧問税理士・弁護士とセットで設計する
資本金は「最初に払って終わりのお金」ではなく、会社の信用を設計するツールです。スタートは現実的に、育ってきたら戦略的に。ぜひ自社の登記簿を一度見直してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。情報は2026年8月時点のものです。
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