おかげさまで、YouTube「守りの経営ch」はチャンネル登録者3万人を突破しました。いつもご覧いただいている経営者の皆さま、コメントで実務の知恵を寄せてくださる皆さまに、心から感謝申し上げます。今回の動画は、いつもの法律解説をお休みして、視聴者の皆さまからいただいたコメントや質問に本音でお答えする記念スペシャルです。
「記念回だから中身は薄いのでは?」と思われるかもしれませんが、実は逆でした。視聴者の皆さまの質問は、「法律の正論と経営の現実が合わないときはどうする?」「モンスター社員というけれど、経営者側に問題がある場合は?」など、経営法務の核心を突くものばかり。本記事では、動画で答えた質問の中から、経営のヒントになるものを整理してお届けします。
1. なぜ弁護士がYouTubeを?──始めた頃と今
チャンネルを始めたきっかけは、シンプルに「届けられる人数の限界」でした。セミナーや個別のご相談で伝えられるのは、どう頑張っても一度に数十人。しかし中小企業の経営者は日本中にいて、法律を知らなかったせいで会社が傾いてしまう例を、仕事の中で何度も見てきました。だったら動画で届けるしかない──そう考えて始めたのがこのチャンネルです。
最初の頃は、条文を説明して終わり、という「弁護士の解説」でした。それが視聴者の皆さまのコメントを読むうちに、皆さんが知りたいのは条文ではなく「で、うちの会社はどうすればいいの?」なのだと気づき、専門用語をできるだけ日常の言葉に置き換えて、必ず「明日から何をするか」まで話すスタイルに変わっていきました。「トラブルが起きてから弁護士を呼ぶ」というコメントが多かった初期に比べて、最近は「トラブルが起きる前にこうしておきます」という前向きなコメントが増えたこと。これが3万人までの一番の変化であり、一番うれしい変化です。
2. 「法律の正論」と「経営の現実」は違う──だからこそ弁護士選びが大事
「弁護士に相談しても『法律上はこうです』と言われるだけで、資金繰りや取引先との関係を考えると現実的ではないことがある」という質問をいただきました。これは弁護士業界への痛烈な一撃ですが、おっしゃるとおりの面があります。「法的に正しい」ことと「経営上の最適解」は、必ずしもイコールではありません。たとえば裁判で勝てる見込みの高い事案でも、かかる時間とコスト、取引先との関係悪化まで考えたら、早期に和解したほうが会社のためになることは十分にあります。
大事なのは、「法的に何ができるか」の選択肢を並べたうえで、資金繰り、取引関係、社内への影響まで含めて「この会社は何を選ぶべきか」を一緒に考えることです。私が「守りの経営」をテーマにしているのも、「経営者寄りか労働者寄りか」という二択ではなく、法律を守りながら会社を守る──会社が法律を守れば、そこで働く社員も守られる──という考え方が原点にあるからです。
POINT:経営の伴走ができる弁護士を見分ける2つの質問
①初回相談で「ビジネスの中身」(売上構造・主要取引先・この取引が止まったら何が困るか)を質問してくるか。②結論だけでなく「選択肢とそれぞれのリスク」を示してくれるか。この2つを見てください。条文の話だけ始める弁護士は、正論は言えても経営の伴走はできません。
3. そもそも法律は何のためにある?──「法とは願い」
「法とは願い。国家がその国民に人間の理想を形としたもの」──漫画『キングダム』のセリフをきっかけにした質問もいただきました。実は弁護士として、この言葉にはとても共感しています。法律には利害を調整して秩序を保つという現実的な役割がありますが、条文の奥には必ず「社会をこうしたい」という価値観、つまり願いが込められています。労働法は「働く人が人間らしく暮らせる社会にしたい」という願いの形ですし、会社法は「安心して商売と投資ができる社会に」という願いの形です。
これは会社のルールも同じです。就業規則は「うちの会社ではこう働いてほしい」という会社の理想を形にしたものであり、契約書は「お互いにこういう関係を築きましょう」という約束の設計図です。「法律さえ守ればOK」ではなく、ルールの背景にある目的まで理解している会社は、リスク管理も強い。これが記念回で一番お伝えしたかったことかもしれません。
4. モンスター社員?それとも経営者に問題がある?
「『モンスター社員』と言いますが、そもそも経営者が法律を守っていれば起きない問題も多いのでは?」という、骨のある質問もいただきました。耳の痛い経営者の方もいるかもしれませんが、正直に言うと、そのとおりの面があります。「問題社員をなんとかしたい」というご相談をよくよく伺うと、労働条件が曖昧だったり、指導の記録が全くなかったり、会社側の労務管理に原因があるケースは実際に少なくないのです。
だから、すべてを「モンスター社員」の一言で片付けるのは危険です。まず会社側の体制を整える。そのうえで、それでも問題行動が続くなら、感情ではなく、事実と記録とルールに基づいて対応する。この順番が鉄則です。動画では「『出社するな』と注意しても出社してしまう社員」という実際のコメントも紹介しましたが、在宅勤務命令や出社制限も立派な業務命令です。ポイントは、①命令の理由をきちんと説明すること、②「他の人もやっている」と言われないよう全員に同じルールを適用すること、③注意した日時と内容を記録に残すこと、の3つです。
「試用期間なら自由に辞めさせられる」は誤解です
関連して、「試用期間中に『うちの会社には合わない』と感じたらどう対応すべきか」という質問にもお答えしました。試用期間を「お試し期間だから自由に辞めさせられる」と思っていたら、それは誤解です。判例上、試用期間は「解約権留保付きの労働契約」──つまり、もう労働契約は成立しています(三菱樹脂事件・昭和48年12月12日最高裁大法廷判決)。本採用拒否は通常の解雇より広く認められる余地がありますが、それでも客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です(労働契約法16条参照)。
POINT:「合わない」を「事実」に変換する
試用期間中こそ、丁寧に指導して、改善のチャンスを与えて、その記録を残す。「合わない」という感覚を「何ができていないか」という事実に変換しておくことが、トラブル回避の一番の近道です。
5. 愛犬・景虎の名前の由来と、これからの「守りの経営ch」
コメントで一番多いかもしれない話題、愛犬・景虎の名前の由来にもお答えしました。ご推察くださった方の言うとおり、「景虎」は上杉謙信の初名・長尾景虎からいただいた名前です。歴史作品をきっかけに法律に興味を持ってくださる方がいるのは、本当にうれしいことです。
そして、これからのこと。このチャンネルはこれからも、経営者の皆さまの「守り」を強くする情報をコツコツお届けしていきます。動画の投稿はもちろん続けますし、新しい挑戦もいくつか仕込んでいます。4万人、5万人を目指して、引き続きよろしくお願いいたします。
まとめ
- 「法的に正しい」=「経営の最適解」とは限らない。選択肢とリスクを並べたうえで、資金繰り・取引関係・社内への影響まで含めて判断する。
- 法律は「社会をこうしたい」という願いの形。就業規則や契約書も同じで、ルールの背景にある目的まで理解している会社はリスク管理も強い。
- 「モンスター社員」と片付ける前に、まず会社側の労務管理を点検。体制を整えたうえで、事実と記録とルールに基づいて対応する。
- 試用期間は「自由に辞めさせられる期間」ではない。労働契約はすでに成立しており、本採用拒否にも合理的な理由と相当性が必要(三菱樹脂事件)。
3万人の皆さまに育てていただいたチャンネルです。法律の話を「自分の会社の話」として聞いてくださる経営者が1人でも増えるように、これからも発信を続けます。そして、動画やコメントだけでは解決しきれない個別のお悩みは、トラブルが起きる前に、ぜひ顧問弁護士にご相談ください。「起きてから」より「起きる前」のほうが、打てる手は何倍もあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。情報は2026年8月時点のものです。
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