法改正・コンプライアンス

【介護保険法改正】変化に対応できない業者は振り落とされる…|
2027年改正で何が変わるのか・介護事業者が今すぐ仕込むべき生存戦略

「2027年度の介護保険法改正で、さらに経営が厳しくなるらしい」──介護事業を営む経営者の方から、こうした不安の声を聞くことが増えました。人手不足と物価高でただでさえ限界に近いのに、この上まだ制度が変わるのか、と。

結論から言えば、その不安は気のせいではありません。2026年6月に成立した改正法は、単なる行政ルールのマイナーチェンジではなく、「変化に対応して進化する事業所を評価し、動かない事業所には厳しい現実を突きつける」選別の改革です。本記事では動画の内容をもとに、介護業界の現状の数字、2027年改正で何が変わるのか、そして生き残る側に回るために今から何を仕込むべきかを解説します。

前提:介護事業者の倒産は2年連続で過去最多

まず現状の数字を直視しましょう。東京商工リサーチの調査によれば、介護事業者(老人福祉・介護事業)の倒産は、2024年に172件で過去最多を記録し、2025年も176件と2年連続で過去最多を更新しました。中でも訪問介護は91件と3年連続で最多。倒産に加えて、休廃業・解散も653件で過去最多です。

人手の面も深刻です。厚生労働省の推計では、介護職員は2026年度に約240万人が必要とされ、2022年度の約215万人から約25万人の上積みが要る計算になっています。人手不足・物価高・報酬の制約という三重苦のさなかに行われるのが、2027年の法改正なのです。

参考:東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』倒産 過去最多の176件」同「2025年『介護事業者』の休廃業・解散653件」厚生労働省「介護人材確保の現状について」(PDF)

2027年改正の「根底にある狙い」──ふるい落としが始まる

今回の改正の根拠となる「社会福祉法等の一部を改正する法律」は、2026年4月に国会へ提出され、同年6月19日の参議院本会議で可決・成立しました。介護保険法などを一括で改正する、いわゆる束ね法で、施行は一部を除いて2027年4月1日です。掲げられたテーマは「質の向上」「生産性向上」「人材確保」「安定した経営基盤の確立」。これが国や都道府県の責務として法律に明記されました。

裏を返せば、ICTの導入や業務改善で生産性を上げ、人材を定着させる事業所は評価するけれど、従来通りの古いやり方に固執する事業所は助けない、という国からの強いメッセージです。つまり2027年改正は、経営体力をただ奪う「改悪」ではなく、変化できる事業者だけを残すための、本格的なふるい落としだと捉える必要があります。

参考:厚生労働省「社会福祉法等の一部を改正する法律案の概要」(PDF)

変更点①:ケアマネジャーの更新制廃止と「法定研修の義務化」

事業所への影響が大きい変更の1つ目は、ケアマネジャー(介護支援専門員)の資格更新制の廃止です。ただし「更新研修から解放される」と喜ぶのは早計です。更新制がなくなる代わりに、資質向上のための法定研修が創設され、正当な理由なく受講しないケアマネには都道府県知事による受講命令、それにも従わなければ最長1年間の業務禁止処分があり得る仕組みになります。

しかも重要なのは、事業所の経営者側に「研修を受講させる機会を確保する義務」が課されることです。シフトの調整と費用の手当てを怠れば、事業所自体が行政指導の対象になり得ます。ここは完全に、経営マターです。

POINT:研修対応は「ケアマネ個人の問題」ではなく「経営の義務」になる

更新制廃止=負担減ではありません。受講機会の確保義務が事業者に課される以上、研修計画・シフト設計・費用負担のルールを2027年4月までに整えておく必要があります。

変更点②:有料老人ホーム等の規制強化と、デジタル化の事実上の強制

2つ目は、有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅への規制強化です。改正により、有料老人ホームなどの定員総数が自治体の介護保険事業計画の勘案事項に加わります。つまり「この地域はもう足りている」と判断されれば、これまでのように自由に新規開設できなくなる可能性があります。さらに、住宅型有料老人ホームへの登録制の導入や、併設ケアマネによる過剰なサービスの囲い込みを防ぐためのケアマネジメントへの利用者負担の導入といった見直しも予定されています。細かい施行時期や内容は今後の政令・省令で確定しますが、「開設も運営も、行政のチェックが強まる」という方向は確定です。

3つ目は、デジタル化の事実上の強制です。マイナンバーカードを使った資格確認など、ペーパーレス・オンライン前提の仕組みが広がります。「うちはずっと紙でやってきたから」という運営は、報酬の評価でも職員の採用でも、確実に不利に働く時代になります。

地域密着型・訪問系サービスはどうなる?──基準は緩んでも「責任」は緩まない

地方の事業者や訪問系サービスに関わる変更は2つあります。1つ目は「特定地域サービス」の創設です。人口減少が深刻な地域では、都道府県の条例で人員基準などを柔軟に緩和できる特例が設けられます。人員確保のハードルが下がる利点の一方で、自治体ごとにルールが変わるため、複数拠点の経営は複雑になります。

そして、弁護士として一番強調したいのはここです。基準が緩和されても、事故が起きたときの安全配慮義務や法的責任は緩和されません。基準ぎりぎりの人員で回すのであれば、リスク管理と記録の整備が、むしろ生命線になります。

2つ目はサービスの再編です。利用が伸び悩んでいた夜間対応型訪問介護は、定期巡回・随時対応型への統合・一本化の方向が示されています。該当する事業所にとっては単なる看板の掛け替えではなく、人員配置・夜間オペレーション・医療連携まで含めた事業再編です。利用者やご家族に「夜の見守りがなくなるのでは」という不安を与えないよう、移行のロードマップを早めに作る必要があります。

結局、経営はどうなる?──「二極化の加速」に備える

2027年改正後の介護業界は、ズバリ「二極化の加速」です。国の仕組みが「取り組む事業所を評価する」方向に振れる以上、現場ははっきり2つに分かれます。

淘汰される側は、昔ながらの紙文化のまま、ICTは苦手だから使わない、ケアマネの研修対応も後回し、という事業所です。人手不足に拍車がかかり、報酬面の評価も取れず、冒頭の倒産統計に自ら並びにいくことになります。生き残る側は、制度変更を先回りして業務改善とデジタル化を進め、働く環境を整えて、職員からも利用者からも選ばれる事業所になったところです。

2027年4月の施行を迎えてから「知らなかった」「間に合わない」と慌てるのが、一番怖いシナリオです。準備期間は、今日からもう始まっています。

まとめ

  1. 介護事業者の倒産は2年連続過去最多。三重苦のさなかに来る2027年改正は「変化できる事業者の選別」である
  2. ケアマネの更新制廃止は負担減ではない。法定研修の受講機会確保が事業者の義務になり、施設開設・運営への行政チェックも強まる
  3. 特定地域サービスで人員基準が緩和されても、安全配慮義務と法的責任は緩和されない。記録とリスク管理が生命線になる

法改正という変化はピンチに見えますが、国の狙いの裏側には「頑張って業務改善や環境整備をしている事業所に、ちゃんと報いる」という面もあります。正しい知識を持って今から動けば、ライバル事業所に一歩差をつける最大のチャンスに変えられます。就業規則や委託契約の整備、事故対応の体制づくり、行政対応まで含めて、顧問弁護士を「攻めの準備」に使ってください。

※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。情報は2026年8月時点のものです。

弁護士 越水遥
この記事の執筆者

弁護士法人越水法律事務所 代表弁護士。東京大学法学部卒業、西村あさひ法律事務所を経て現職。企業法務・労務問題を中心に中小企業・スタートアップの経営を法務面から支援し、YouTube「守りの経営ch」で経営者向けの法律知識を毎日配信している。

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