労務・問題社員対応

就業規則に「副業禁止」と明記すれば処分できる?|
「無届=即解雇」は高確率で負ける──解雇の有効・無効を分けた4つの判例と正しい対応5段階

「就業規則には『副業をするときは会社へ届け出ること』と書いてある。それなのに社員が内緒で、休日に別の会社で働いていた。ルールを破って隠れて稼いでいたのだから、懲戒処分や解雇もできますよね?」──経営者の方から、よくいただくご相談です。お気持ちはよく分かります。しかし結論から言うと、「無届で副業していた」という事実だけを理由に解雇すると、高い確率で会社が負けます

一方で、裁判所が副業を理由とする解雇を有効と認めたケースも実際にあります。この「有効」と「無効」を分けた境界線を知っているかどうかで、会社の対応は180度変わります。本記事では動画の内容をもとに、会社が副業を禁止・制限できる4つの場面、解雇の有効・無効を分けた4つの判例、そして無断副業が発覚したときの正しい対応手順を解説します。

そもそも会社は、社員の副業を全面禁止できるのか

大前提として、勤務時間外は社員が自由に使える時間です。そのため、理由のない全面禁止の規定は、合理性を欠くと判断されるリスクがあります。国の姿勢も明確で、厚生労働省は2018年にモデル就業規則から「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定を削除し、原則容認・届出制の規定例に書き換えました。世の中の流れも同じ方向で、パーソル総合研究所の調査(2025年発表・第4回)では、正社員の副業実施率は11.0%と調査開始以来の最高値となり、特に20代など若年層で上昇が顕著とされています。

ただし、社員の副業は無制限に認められるわけではありません。裁判例の蓄積から、会社が副業を禁止・制限できるのは、大きく次の4つの場面と整理されています。

つまり就業規則の作り方は、「全面禁止」ではなく「原則自由・事前届出制+この4類型に当たるときは禁止・制限できる」と定めるのが、攻めにも守りにも強い形です。

参考:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」パーソル総合研究所「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」

解雇が「有効」になったのは、どんなケースか

副業を理由とする解雇が裁判で認められた代表例が、小川建設事件(東京地裁昭和57年11月19日決定)です。建設会社の社員が、会社に無断で、毎晩キャバレーの会計係として6時間働いていたケースで、裁判所は「深夜に及ぶ長時間の兼業は、単なる余暇利用のアルバイトの域を超え、本業への労務の誠実な提供に支障を来す蓋然性が高い」として、解雇を有効と判断しました。ポイントは「毎晩6時間」という量です。8時間働いた後に毎日6時間の副業では、疲労で本業に影響が出ないはずがない、と評価されたわけです。

もう一つが橋元運輸事件(名古屋地裁昭和47年4月28日判決)です。こちらは会社の管理職にある社員が、競業関係にあるライバル会社の取締役に就任したケースで、解雇が有効とされました。競業は会社の利益を直接害するからです。つまり、「長時間で本業に支障」か「競業・秘密漏えい」のレベルまでいくと、解雇は現実的な選択肢になります。

参考:厚生労働省「副業・兼業に関する裁判例」(ガイドラインパンフレット参考資料)

解雇が「無効」になったのは、どんなケースか

逆に会社が負けた代表例が、十和田運輸事件(東京地裁平成13年6月5日判決)です。運送会社の運転手が、年に1〜2回、他社の運送アルバイトをしていたことを理由に解雇されたケースで、裁判所は、頻度がごくわずかで本業への具体的な支障もなく、信頼関係を破壊したとまではいえないとして、解雇を無効としました。「無届」という形式違反だけでは、解雇の理由として足りないのです。

さらに怖いのがマンナ運輸事件(京都地裁平成24年7月13日判決)です。こちらは運送会社が、社員からの副業(アルバイト)許可申請を4回にわたって不許可にし続けたところ、裁判所は後の2回の不許可には理由がなく違法だとして、会社に損害賠償(慰謝料)の支払いを命じました。つまり今は、副業を不当に禁止する側にも賠償リスクがある時代なのです。

POINT:解雇無効=バックペイで数百万円のリスク

解雇が無効と判断されると、争っていた期間の賃金をさかのぼって支払う「バックペイ」が発生します。1年争えば数百万円規模になることも珍しくありません。感情にまかせた「クビだ」の一言が、一番高くつきます。

参考:厚生労働省「副業・兼業に関する裁判例」(ガイドラインパンフレット参考資料)

無断副業が発覚したら──対応は5段階で

では、実際に社員が隠れて副業しているのが分かったら、どう動くべきか。感情的にその場で処分を言い渡すのが最悪手です。手順は次の5段階で進めます。

  1. 就業規則の確認──届出制か許可制か、懲戒事由に無届副業が入っているか、規則が社員に周知されているか
  2. 事実確認──副業先の事業内容・業務・勤務時間・契約形態、競業関係の有無、会社の情報や設備を使っていないか
  3. 本業への影響の確認──勤怠記録、遅刻・欠勤、居眠り、ミスの増加といった客観的事実
  4. 改善指示──深夜勤務をやめる、時間を減らす、労働時間を報告するなど合理的な指示を出し、記録に残す
  5. 段階的処分──それでも従わない場合に、注意、始末書、戒告と段階的に処分し、悪質な場合に限って解雇を検討する

もう一つ、経営者が見落としがちな論点が労働時間の通算です。労働基準法38条により、本業と副業先の労働時間は通算されます。ただし通算されるのは、他社で雇用契約を結んで働く場合(アルバイト等)です。フードデリバリー配達員や動画編集の請負のような業務委託(個人事業主)の副業は、労働時間として通算されません。だからこそ、「どんな契約形態で副業しているのか」を会社が把握するための届出制が必要なのです。割増賃金の負担や社員の健康管理にも直結する論点なので、届出の際に契約形態と時間数を確認する運用にしておきましょう。

参考:e-Gov法令検索「労働基準法」(38条)

まとめ

  1. 勤務時間外は原則自由。副業の全面禁止は合理性を欠くリスクがあり、就業規則は「原則自由・届出制+4類型(本業への支障・秘密漏えい・信用毀損・競業)で制限」の形にする
  2. 「無届」という形式違反だけでの解雇は無効になりやすい(十和田運輸事件)。逆に不当な不許可を続ければ会社側に賠償リスク(マンナ運輸事件)。解雇が現実的なのは長時間で本業に支障(小川建設事件)や競業(橋元運輸事件)のレベル
  3. 発覚時は「規則確認→事実確認→影響確認→改善指示→段階的処分」の5段階。労働時間の通算(労働基準法38条)は雇用契約の副業のみが対象で、契約形態の把握のためにも届出制が有効

罰したいのは「隠れて働いたこと」ではなく、「会社に実害を与えること」のはずです。ルールを実害ベースで設計すれば、社員は正直に申告し、会社は本当に危険な副業だけを止められます。就業規則の副業規定の点検や、発覚時の対応設計は、トラブルが深刻化する前に専門家と一緒に進めてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。情報は2026年8月時点のものです。

弁護士 越水遥
この記事の執筆者

弁護士法人越水法律事務所 代表弁護士。東京大学法学部卒業、西村あさひ法律事務所を経て現職。企業法務・労務問題を中心に中小企業・スタートアップの経営を法務面から支援し、YouTube「守りの経営ch」で経営者向けの法律知識を毎日配信している。

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