経営者の方が性犯罪の疑いで逮捕された、というニュースを目にすることが増えました。「自分には関係ない」と思った方こそ、この記事を最後まで読んでいただきたいと思います。2023年7月に施行された改正刑法で「不同意性交等罪」が生まれてから、この罪の認知件数は2024年に3,936件と前年比プラス45.2%に急増しています。処罰の範囲が明確化され、被害を申告しやすい環境が整ったことで、これまで表に出なかった事案が一気に顕在化しているのです。
先に大前提を申し上げます。同意のない性的行為は、決して許されません。ここに議論の余地はありません。そのうえで経営者の皆さんに知っていただきたいのは、この罪には「示談すれば済む」「お金で解決できる」という考えが一切通用しない構造があるということ、そして立場のある経営者ほど失うものが大きく、しかも「狙われる」ということです。本記事では動画の内容をもとに、法改正のポイントと経営者が知っておくべき現実、今日からできる防衛策を解説します。
2023年改正で何が変わったのか──「不同意」を中心に置いた8つの類型
2023年7月13日に施行された改正刑法で、それまでの「強制性交等罪」は「不同意性交等罪」に変わりました。名前の変更以上に重要なのは、処罰の中心が「暴行や脅迫があったか」から、「相手が、同意しない意思を形成し、表明し、全うすることが困難な状態だったか」に変わったことです。
法律は、その「困難な状態」の原因となる行為・事由を8つ、具体的に列挙しました。
- ① 暴行・脅迫
- ② 心身の障害
- ③ アルコールや薬物の影響
- ④ 睡眠などで意識がはっきりしない状態
- ⑤ 同意しない意思を示す「いとま」がない不意打ち
- ⑥ 予想と異なる事態への直面による恐怖・驚がく
- ⑦ 虐待に起因する心理的反応
- ⑧ 経済的・社会的な関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益への憂慮
つまり、殴っていない、脅していない、相手が抵抗しなかった──それでも、酔いつぶれていた、断れない関係だった、という事情があれば犯罪が成立し得ます。さらに、配偶者間でも成立することが条文に明記され、性交同意年齢は13歳から16歳に引き上げられ、公訴時効も10年から15年に延長されました。被害者が18歳未満の場合は、18歳になるまでの期間がさらに上乗せされます。何年も経ってから、ある日突然、刑事事件になり得るということです。
参考:法務省「性犯罪関係の法改正等 Q&A」/刑法(e-Gov法令検索)
経営者に直撃する2つの類型──「断れない関係」と「酒席のあと」
8つの類型のうち、経営者が特に注意すべきものは2つあります。
1つ目は、⑧の「地位・関係性の利用型」です。社長と従業員、発注者と下請の担当者、面接する側と就活生。相手が経済的・社会的に「断ったら不利益があるかもしれない」と憂慮するような関係であれば、あなたが積極的に脅していなくても、この類型に該当し得ます。「嫌がっていなかった」「合意だと思っていた」という言い分が、力関係の前では通りにくい構造に変わったのです。
2つ目は、③のアルコールと④の睡眠です。会食や飲み会のあと、酔った相手、寝てしまった相手との行為は、極めて典型的な事案類型です。密室での「同意があった」の証明は、本当に難しい。この2類型が重なる「地位のある人との酒席のあと」は、最もリスクの高い場面だと考えてください。
POINT:あなたにその気がなくても、法律は「影響力」を見る
⑧の類型は、脅し文句を口にしたかどうかではなく、相手が置かれた関係性そのものに着目します。「断りにくい立場」の相手を二人きりの場に誘うこと自体が、経営者にとってはリスクの入口になります。
「示談すれば大丈夫」が通用しない3つの理由
「万一トラブルになっても、示談してお金を払えば大ごとにはならない」と考えている経営者は少なくありません。しかし、この罪には「お金で解決できる保証」が制度上ありません。理由は3つあります。
第一に、性犯罪は2017年の法改正で「非親告罪」になりました。かつての強姦罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪でしたが、今は違います。被害者の告訴がなくても、示談が成立していても、被害届が取り下げられても、検察官は起訴できます。もちろん実務では、示談の成立は不起訴の方向に働く非常に重要な事情です。ただ、それは「考慮される」だけであって「保証」ではありません。事案が悪質だったり、社会的影響が大きかったりすれば、示談が成立していても起訴されることがあります。
第二に、起訴されたら、日本の刑事裁判の有罪率は99%を超えます。起訴された時点で、ほぼ勝負がついている世界です。
第三に、これが最も重いのですが、不同意性交等罪の法定刑は「5年以上の有期拘禁刑」で、罰金刑がありません。一方、執行猶予を付けられるのは、言い渡される刑が3年以下の場合だけです(刑法25条)。つまり、裁判所が特別な事情を酌んで刑を減軽しない限り、有罪イコール、執行猶予なしの実刑です。「一発実刑」という表現は煽りではなく、法律の構造そのものなのです。
お金の面でも、この種の事案の示談金は一般に100万〜300万円程度が目安とされ、事情によっては500万円を超えることもあります。そして経営者の場合、「資力がある」「立場を失いたくないはずだ」と見られて、相場をはるかに超える、時に数千万円という法外な金額を要求されるケースが実際にあります。それでも、払えば終わるという保証はどこにもない。これが現実です。
逮捕された瞬間、会社で何が起きるか──最大23日間の「社長不在」
想像してみてください。ある朝、突然自宅に警察が来ます。その瞬間にスマホを押収され、外部と一切連絡が取れなくなります。月曜朝イチの重要な役員会議、あなたは「無断欠勤」です。家族にも会社にも、自分で事情を説明することはできません。
刑事手続の時計はこう進みます。逮捕から48時間以内に検察へ送致、そこから24時間以内に勾留請求。勾留が認められれば10日間、延長でさらに10日間。つまり、逮捕から最大23日間、社長が会社から消えます。その間、決裁も、資金繰りの判断も、重要な商談も止まります。そして多くの場合、実名報道です。取引先も、銀行も、従業員も、ニュースで社長の逮捕を知ることになります。報道が一巡しても、検索結果とスクリーンショットは残り続けます。
その先に待つのが銀行の反応です。経営者の逮捕は金融機関にとって重大な信用情報であり、融資の引き上げや新規・折り返し融資のストップという形で、会社の資金の生命線が一気に細る事態も現実に起こり得ます。さらに有罪で実刑となれば、会社法331条の欠格事由に該当し、刑の執行が終わるまで取締役になれません。つまり代表取締役の地位を失います。この罪には罰金刑がないため、「有罪にはなったが役員は続ける」という選択肢が原則ないのです。
参考:刑事訴訟法(e-Gov法令検索)/会社法(e-Gov法令検索)
「狙われる」リスクと、逆に「放置」するリスク
一方で、経営者が「狙われる」リスクもあります。飲み会やマッチングアプリ、いわゆるパパ活を入口に関係を持たせたうえで、「訴える」「会社にバラす」と迫り、示談金名目でお金を脅し取る──いわゆる美人局です。これは恐喝罪(刑法249条・10年以下の拘禁刑)にあたる立派な犯罪で、2026年6月には、生成AIに答えさせた「示談金の相場」を突きつけて現金を脅し取ったとして3人が逮捕された事件も報道されました。
ただし、ここで絶対に間違えてはいけないことがあります。「これは美人局だ」と自分で決めつけて突っぱねるのも、最悪の対応だということです。本当に相手が被害を受けている可能性は常にありますし、真実がどちらであっても、あなたが自分で相手とやり取りした瞬間、状況は必ず悪化します。「不快な思いをさせてごめん」というメッセージすら、場合によっては「認めた」と受け取られかねません。会話は録音され、メッセージは証拠になり、下手をすれば口止めや脅しと受け取られます。どちらのケースでも正解は一つ、直接接触せず、直ちに弁護士に間に入ってもらうことです。
逆のパターンにも触れておきます。被害者側から示談金の要求が届いているのに、「言いがかりだ」と放置してしまう経営者も実は少なくありません。これは絶対にNGです。放置している間に、相手は被害届の提出、告訴、民事訴訟へと進んでいきます。示談で穏当に解決できたはずの事案が、放置によって逮捕・起訴コースに変わってしまうのです。
まとめ──経営者が今日から守るべき5つの行動原則
- 明確な同意のない性的行為は、絶対にしない。迷うくらいならしない
- 酔っている相手、寝ている相手は、何があってもNO
- 従業員・取引先・就活生など「断りにくい立場」の相手を二人きりの場に誘わない。法律はあなたの「影響力」を見る
- トラブルの気配を感じたら、相手と直接やり取りせず、SNSにも書かず、その日のうちに弁護士へ。無視・放置も自己流の反論もしない
- 社長個人の話で終わらせず、役員・管理職にも共有する。役員が起こしても会社が受けるダメージは同じ
繰り返しますが、同意のない性的行為は決して許されません。その大前提の上で、疑われる状況も、巻き込まれる状況も、最初から作らない。それが自分と会社と家族、そして相手を守る唯一の方法です。「示談すれば済む」時代は、もう終わっています。トラブルの気配の段階から即日相談できる顧問弁護士がいれば、初動の一手で結果は大きく変わります。
※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。情報は2026年8月時点のものです。
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