労務・安全配慮

社員だけでなく個人事業主やフリーランスの安全にも配慮すべき時代になりました|
建設アスベスト最高裁判決から2026年施行の改正労働安全衛生法まで──フリーランス新法・偽装請負・会社が守るべきルール

「あの人はうちの社員じゃなくて業務委託だから、労災も安全管理も関係ない」──こう考えている社長は、いま一番危ない層かもしれません。外注のエンジニア、常駐のデザイナー、配送を任せている個人事業主、現場の一人親方。雇用契約がない働き手の「安全」について、ここ数年で法律のルールが急速に変わり、会社が守るべき相手は「労働者」だけではなくなりつつあります

本記事では、動画の内容をもとに、①労働者の安全を守る法律の基本(安全配慮義務と労働安全衛生法)、②フリーランス・個人事業主へ保護が広がってきた流れ(建設アスベスト最高裁判決から2026年施行の改正労働安全衛生法まで)、③フリーランス新法で発注者に課された義務、④「偽装請負」のリスク、⑤会社が守るべきルール──を整理します。

1. まずは基本──会社が「安全」を守る2つの法律

従業員の安全について、経営者が押さえるべき法律は大きく2つあります。

ポイントは、どちらも本来は「労働者」を守るための仕組みだということです。だからこそ「業務委託なら対象外」という発想が生まれてきました。ところが、この前提が大きく揺らいでいます。

参考:e-Gov法令検索「労働契約法」(5条)e-Gov法令検索「労働安全衛生法」

2. 「労働者だけ守ればいい」が終わった転機

雇っていなくても安全配慮義務を負うことがある

実は判例上、雇用契約がなくても安全配慮義務を負う場面は以前から認められていました。最高裁は、下請企業の労働者が元請の造船所で、元請の設備・工具を使い、事実上元請の指揮監督を受けて、正社員とほぼ同じ内容の作業をしていた事案で、雇用関係のない元請にも信義則上の安全配慮義務を認めています(三菱重工業神戸造船所事件・最判平成3年4月11日)。「契約書の相手方かどうか」ではなく「実際にその人の働き方を支配しているか」で判断されるのです。

建設アスベスト最高裁判決という決定打

流れを決定づけたのが、令和3年(2021年)5月17日の建設アスベスト訴訟最高裁判決です。最高裁は、労働安全衛生法22条(健康障害を防止するための措置)は、労働者だけでなく、同じ場所で作業する労働者でない者──一人親方など──も保護する趣旨だと判断し、国の規制権限の不行使を違法としました。

この判決を受けて、ルールが立て続けに整備されます。

POINT:「業務委託だから安全は自己責任」はもう通用しない

判例(安全配慮義務)と法改正(労働安全衛生法)の両面から、フリーランス・個人事業主の安全は「発注する会社も守るべきもの」へと位置づけが変わりました。とくに現場作業・常駐型の委託がある会社は、社員と同じ目線での安全管理が求められます。

参考:厚生労働省「一人親方等の安全衛生対策について」厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)」

3. フリーランス新法──「安く・曖昧に・待たせて」発注できた時代の終わり

安全と並んで整備が進んだのが「取引」のルールです。2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)は、フリーランス(特定受託事業者)に業務委託する発注事業者に、次のような義務を課しました。

違反があれば、公正取引委員会等が報告徴収・立入検査を行い、指導・勧告・命令・公表という流れで是正が図られます。「フリーランス相手なら口約束で、支払いも自社の都合で」というやり方は、行政対応リスクに直結する時代です。

参考:公正取引委員会「フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組」政府広報オンライン「フリーランス・事業者間取引適正化等法」

4. 偽装請負──「業務委託」の看板は、実態の前では無力です

そして、経営者が一番注意すべきなのが「偽装請負」です。契約書の題名が「業務委託契約」でも、実態として、会社が時間や場所を拘束し、細かく指揮命令し、他社の仕事を受ける自由もない──そんな働かせ方をしていれば、その人は法律上「労働者」と判断される可能性があります

労働者と判断されれば、話は業務委託の世界では終わりません。労働基準法・最低賃金法・労働安全衛生法・労災保険が全面的に適用され、未払い残業代の請求、社会保険の遡及加入、労災の事業主責任といったリスクが一気に現実化します。フリーランス新法への対応を整えても、そもそもの働かせ方が雇用の実態なら、より重い労働法の適用を受けるのです。

POINT:判断されるのは「契約書」ではなく「働き方の実態」

仕事の依頼を断る自由があるか、業務の進め方を本人が決められるか、勤務時間・場所を拘束していないか、報酬が「時間給」的になっていないか。業務委託の相手に社員と同じ管理をしているなら、契約形態の見直しか、雇用への切り替えを検討すべきサインです。

参考:e-Gov法令検索「労働基準法」(9条)

5. 会社が守るべきルール──今日からの点検5項目

  1. 業務委託先の「働き方の実態」を棚卸しする。指揮命令・時間場所の拘束・専属性がないか。偽装請負の芽を摘むのが出発点です。
  2. フリーランス新法対応を整える。発注時の条件明示(書面・メール)、60日以内払い、相談窓口の整備。契約書のひな形と発注フローを見直しましょう。
  3. 危険有害作業・現場作業を任せる相手への保護措置。一人親方や請負人にも、作業方法・保護具の必要性の周知、退避・立入禁止の運用を社員と同様に。
  4. 常駐・混在作業のフリーランスは「同じ場所で働く仲間」として安全管理。2026年4月から順次施行されている改正労働安全衛生法は、まさにこの場面を想定しています。
  5. 事故が起きたときの対応をあらかじめ決めておく。雇用でないからと放置すれば、安全配慮義務違反の損害賠償と企業イメージの毀損が同時に来ます。

まとめ

  1. 会社が安全を守る法律は2本柱。安全配慮義務(労働契約法5条・民事責任)と労働安全衛生法(罰則付き・刑事/行政責任)。
  2. 保護の対象は「労働者」から「同じ場所で働く人」へ。建設アスベスト最高裁判決(令和3年5月17日)を転機に、2023年・2025年の省令改正、そして個人事業者等を正面から保護する改正労働安全衛生法(2026年4月から順次施行)へ。
  3. フリーランス新法(2024年11月施行)で発注者に義務。条件明示・60日以内払い・ハラスメント相談体制など。
  4. 偽装請負は全リスクの起爆剤。実態が雇用なら、労働法が全面適用される。

フリーランスや個人事業主の活用は、これからの中小企業にとってむしろ広がっていく経営手法です。だからこそ、「安く・曖昧に・自己責任で」ではなく、ルールに沿った付き合い方を設計できる会社が、良い人材に選ばれ続けます。業務委託契約書のひな形、発注フロー、現場の安全管理──自社の体制がこの数年の法改正に追いついているか、一度専門家の目で点検してみてください。顧問弁護士がいれば、契約書の整備から「これは委託でいけるのか、雇用にすべきか」という入口の判断まで、日常的に相談しながら進められます。

※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。法令・制度は厚生労働省・公正取引委員会・e-Gov法令検索の公表資料(2026年9月時点)に基づきます。

弁護士 越水遥
この記事の執筆者

弁護士法人越水法律事務所 代表弁護士。東京大学法学部卒業、西村あさひ法律事務所を経て現職。企業法務・労務問題を中心に中小企業・スタートアップの経営を法務面から支援し、YouTube「守りの経営ch」で経営者向けの法律知識を毎日配信している。

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