法改正・コンプライアンス

【2026年12月施行予定】代表者住所の非開示についてのルールが変わることによる影響|
株式会社だけだった「住所非表示措置」が合同会社・一般社団法人など全法人へ。申出のタイミングと「調べる側」の与信実務まで解説

「登記簿で自宅を調べられて、見知らぬ営業マンが突然家に来た」「クレーム客に自宅の外観を晒された」。経営者の方から、こうした話を伺うことが増えました。法人をつくると登記をしますが、登記簿には代表者の氏名だけでなく、自宅住所が番地まで載ります。そして登記簿は、手数料を払えば誰でも取得できます。社長の自宅住所は、事実上、誰でも調べられる状態にあったわけです。

この常識が、いま大きく変わろうとしています。法務省は、住所の表示を市区町村までにとどめる「住所非表示措置」の対象を、株式会社だけから、合同会社・一般社団法人をはじめとするすべての法人へ広げる省令案を公表し、2026年12月の施行を予定しています。本記事では、①何がどう変わるのか、②合同会社・一般社団法人の代表の方こそ注目すべき理由、③12月に向けて経営者がしておくべき実務、の3つに分けてお伝えします。

1. 現行制度:株式会社だけの「住所非表示措置」(2024年10月〜)

前提となる現行制度から押さえておきましょう。法務省は2024年10月1日から、「代表取締役等住所非表示措置」を導入しています。株式会社の代表取締役・代表執行役・代表清算人について、希望すれば登記事項証明書などでの住所の表示を最小行政区画(市区町村)までにとどめる制度です。たとえば「横浜市西区北幸一丁目○番○号」ではなく、「横浜市西区」までしか表示されなくなります。

ここが今回の最重要ポイントなのですが、この制度が使えるのは株式会社だけでした。合同会社などの持分会社、一般社団法人・一般財団法人、NPO法人や医療法人といった各種法人は、対象外とされてきたのです。なお、DV・ストーカー被害者の方などを保護するための住所非表示の仕組みは、2022年9月から別枠で先行していましたが、「希望すれば誰でも」という今回の方向性とは発想がまったく異なります。

参考:法務省「代表取締役等住所非表示措置について」

2. 何が変わるのか:省令案の3つのポイント(2026年12月施行予定)

法務省民事局は2026年7月24日から8月23日まで、「商業登記規則等の一部を改正する省令案」について意見募集を行いました。公表された省令案の概要によれば、改正のポイントは次の3つです。

施行時期は「令和8年12月予定」とされています。各種法人等登記規則の対象には医療法人・学校法人・NPO法人などが含まれますから、報道のとおり、事実上あらゆる法人の代表者に「自宅住所を市区町村までにする」という選択肢が与えられることになります。非表示にするかどうかはあくまで希望者の申出によるもので、これまでどおり開示を続ける選択もできます。

もう1つ意外な数字があります。法務省の月報によれば、先行する株式会社での実施件数は、2024年10月の開始から2026年8月末までの累計で約2万6,000件です。国税庁の調査では国内の法人数は約300万社ですから、利用は全体の1%にも満たないのが現状です。この理由は後ほどお話しします。

参考:e-Govパブリック・コメント「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集(案件番号300080357)法務省「代表取締役等住所非表示措置の申出による実施件数(月報)」

3. 合同会社・一般社団法人の代表こそ注目すべき2つの理由

今回の拡大で影響がいちばん大きいのは、合同会社と一般社団法人の代表の方です。理由は2つあります。

1つ目は、その数の多さです。東京商工リサーチの調査によると、2025年に全国で新しく設立された法人は15万7,011社で過去最多。このうち合同会社が4万4,991社と全体の28.6%を占め、こちらも過去最多です。一般社団法人も6,480社が新設されました。株式会社は10万5,558社で最多ではあるものの、前年をわずかに下回っています。つまり、いま日本で新しくつくられる法人のおよそ3社に1社は、株式会社「以外」なのです。合同会社は定款認証が不要で登録免許税も安く、スモールビジネスや資産管理会社の定番になっています。これだけ使われているのに、代表社員や代表理事には自宅住所を非表示にする選択肢がなかった。今回の拡大は、この層にとって「初めての保護」です。

2つ目は、「穴」がふさがることです。経営者の方は、本業の株式会社のほかに、資産管理用の合同会社を持っていたり、業界団体の一般社団法人の代表理事を務めていたりすることが少なくありません。これまでは株式会社の登記だけを非表示にしても、兼任先の合同会社や一般社団法人の登記から住所が分かってしまうという、制度として片手落ちの状態でした。全法人に広がることで、ようやく実効性が出てきます。

POINT:登記制度の「思想の転換点」

登記は、法人の情報を公示して取引に入る人を守るためのインフラでした。その公示の原則を、個人の安全とプライバシーという価値が正面から修正する。守られる側には朗報ですが、「調べる側」の実務が変わることも同時に意味します(後述)。

参考:東京商工リサーチ「2025年の新設法人 最多の15万7,011社」

4. 利用が1%未満にとどまる理由──デメリットと申出のタイミング

便利そうな制度なのに、なぜ利用が1%未満なのか。答えは実務上のデメリットにあります。法務省自身が注意喚起しているのですが、住所を非表示にすると、登記事項証明書で代表者の住所を証明できなくなるため、金融機関から融資を受ける場面で不都合が生じたり、不動産取引などで必要な書類が増えたりする影響が想定されます。

もう1つの理由が、申出のタイミングが限られていることです。現行制度では、非表示の申出は設立登記、代表者の就任・住所変更の登記、管轄外への本店移転登記など、代表者の住所が記録される登記の申請と同時にしかできません。「思い立ったときに単独で申請する」ことはできないのです。今回の省令案も、代表者等の住所が登記すべき事項に含まれる登記の申請をする者が申出をできるという枠組みで、登記申請と同時にするという基本は維持されています。

さらに、上場会社以外は本店の実在を証する書面や代表者の住民票等、実質的支配者に関する書面の添付も必要です。「非表示にするかどうか」は単なる手続の話ではなく、資金調達や取引への影響を踏まえた経営判断だとお考えください。

5. 「調べる側」への影響と、12月に向けた3つのアクション

忘れてはならないのが、逆の立場です。自社が守られるということは、取引先の情報も同じように見えなくなるということです。代表者の住所は、同姓同名の識別、反社チェック、代表者個人に連帯保証をしてもらっているケースでの責任追及など、与信管理と債権回収の重要な手がかりでした。とりわけ合同会社は決算公告の義務がなく、もともと開示情報が少ない法人形態です。

ここまでを踏まえ、12月までにやっておいていただきたいのは次の3つです。

  1. 登記の棚卸し:自分がどの法人の代表者・役員として登記されているか、株式会社・合同会社・一般社団法人・医療法人・NPOまで含めてリストアップする
  2. 申出のスケジューリング:非表示の申出は登記申請と同時が基本です。とくに合同会社は役員の任期がないため、重任登記という定期的な機会がありません。「どの法人を、どの登記のタイミングで手当てするか」を、顧問の司法書士や弁護士と早めに設計しておく
  3. 与信・契約実務のアップデート:取引先の審査を登記情報だけに頼らない形に見直す(決算書の徴求、代表者との面談、信用調査会社の活用)。契約書には代表者や実質的支配者が変わったときの通知義務条項を入れ、連帯保証を取る場合は契約時点で住所・連絡先を保証契約書に記載し、本人確認資料をいただいておく

POINT:「あえて開示を続ける」も戦略です

資金調達や不動産取引が多い会社、透明性で信用を積み上げたい会社にとっては、開示継続が合理的な場合もあります。「非表示にできるようになったから、みんな非表示」ではなく、法人ごとに、業種特性と資金調達の予定を踏まえて判断する。それがこの制度との正しい付き合い方です。

まとめ

  1. 登記簿には代表者の自宅住所が番地まで載り、誰でも取得できる。2024年10月から株式会社限定で、住所表示を市区町村までにとどめる「代表取締役等住所非表示措置」が導入済み
  2. 法務省の省令案は、この措置をすべての会社(対象者は代表者・清算人等・支配人)と、会社以外の法人・LPS・LLPに拡大する内容で、施行は2026年12月予定。希望者のみが対象で、開示継続も選べる
  3. 先行する株式会社での実施件数は累計約2万6,000件(2026年8月末)。融資・不動産取引での不都合と、申出が登記申請と同時に限られることが理由
  4. 2025年の新設法人の約3割が合同会社。合同会社・一般社団法人の代表にとっては初めての保護であり、兼任先から住所が割れる「穴」もふさがる
  5. やるべきは、登記の棚卸し・申出のスケジューリング・与信と契約実務のアップデートの3つ。「調べる側」の体制も同時に見直す

今回のニュースの本質は、経営者は「守られる側」と「調べる側」の両方の立場に立つということです。どの法人をどのタイミングで非表示にするか、逆に取引先の情報が見えなくなる前提で契約書や与信のルールをどう組み直すか。こうした判断は、顧問弁護士がいれば平時の相談の延長として進められます。省令の詳細はこれから固まっていきますので、まずは「登記の棚卸し」から始めてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の事案については弁護士等の専門家にご相談ください。改正の内容は意見募集時点の省令案に基づくものであり、最終的な省令の内容・施行日は今後の公布により確定します。情報は2026年9月時点のものです。

弁護士 越水遥
この記事の執筆者

弁護士法人越水法律事務所 代表弁護士。東京大学法学部卒業、西村あさひ法律事務所を経て現職。企業法務・労務問題を中心に中小企業・スタートアップの経営を法務面から支援し、YouTube「守りの経営ch」で経営者向けの法律知識を毎日配信している。

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